今のチンドン屋の編成はチンドン太鼓(鉦・締太鼓・大胴が組み合わさったもの)とゴロスと呼ばれる大太鼓、それにメロディ楽器(クラリネットやサックスなど)が多いですが、チンドン屋の初期(大正から昭和の初めくらいでしょうか)はメロディ楽器の役割を三味線が担っていたようです。
ただ、気候の変化に弱く、音量も小さい三味線は、管楽器が導入されることで、消えて行ってしまい、今では屋外で三味線が入ることはほとんどありません。
でも三味線が入っていた名残なのか、チンドン屋には私が入った頃、まだいらっしゃったベテランの楽士さんには三味線の曲のレパートリーが結構ありました。
チンドン屋のテーマソングと言われて演奏される「竹に雀」や最後の〆で演奏される「四丁目」などのお囃子物は今でも演奏されています。
今はやらない事も多いですが、以前東京では、朝一番の曲は竹雀、最後の曲は四丁目というのが決まりでした。
この二曲の他にも、「かごまり」「吾妻八景」「千鳥」「米洗い」「三十三間堂」などなど。今でも演奏しています。三味線じゃなくて、管楽器が演奏しますし、長い間、チンドン屋で演奏されるうちに、アレンジもされているだろうと思うので、原曲とはちょっと違ってきているかもしれませんが、それもチンドン屋らしくて面白いと思います。
お囃子は太鼓の手が決まっていて、お囃子物が得意だった瀧乃家一二三親方は惚れ惚れするような見事な太鼓を叩いていらしたのが印象深いです。
そんな中に「新内の前弾き」と呼ばれる曲がありました。
ある時、三味線の方の舞台を見ていた時に、この新内の前弾きのフレーズが演奏されました。
これは!と思い、何の曲かお尋ねした所、「ランチョウ」というお答え。
新内というものを全く知らなかったため「ランチョウ?乱調?どう意味だろう?」
と不思議に思いつつ、家に帰って調べてみると、「蘭蝶」正式名は「若木仇名草」という新内を代表する曲というのがわかりました。
蘭蝶というのは主人公の太鼓持ちの名前で、話の内容は蘭蝶と奥さんと遊女の恋人の三角関係というなかなかドロドロしたお話。
その「蘭蝶」の前奏のような部分で弾かれていたのが「新内の前弾き」でした。多分、「蘭蝶」の格好いい賑やかな部分をチンドン屋の曲として取り入れたのでしょう。説明がタイトルとして、チンドン屋に残ったのが面白いなぁと思います。
「千鳥」という曲もチンドン屋では、早いテンポで賑やかに演奏することが多いのですが、浪曲でもこの曲が水辺の場面で良く使われていて、チンドンとは違いゆっくりとしたテンポで、船が川を進んでいくような風情があり、千鳥の印象が変わりました。
チンドン屋で馴染んだ曲に場所が変わって巡り合うと違う印象が加わり、興味深いです。